ポーラーテック社のアーロン・フォイアスタインをご存じでしょうか?
ものの価値は一概に品質や希少性だけでは決まりません。
憧れの人が使っている、製造会社の社会活動を支援しているなど、付加価値に大きく左右されます。例えばアディダスがストリート系ファッションで人気なのは「My Adidas」、、、
またパタゴニアが多くのアウトドア愛好家に支持されているのはのほ製品品質だけでなく、当社が事前保護に、、
そして感銘を受けるほどの付加価値が付いたとき、それは製品そのものの価値
。
私は何か高価なものを購入する際に、その製造元の背景を調べます。
例えば社会に反する活動を行っていた場合はどんなに安くても買いません。反社活動を間接的に支援していることになるからです。
逆に販売利益の一部が慈善活動に使われている製品は多少高くても買います。
例えばアウトドアメーカーであるパタゴニアのウェアは環境活動にとことんこだわって製造されています。農薬が土壌を汚染する可能性があるため原料は有機栽培にこだわり、製造環境もフェアトレードを徹底しています。アウトドア好きは自然好きなのでパタゴニアのような自然保護活動をしているメーカー品を好んで使用する傾向にあります。
ポーラテック社をご存知でしょうか?
先ほどのパタゴニアと共同開発し、化繊素材の「フリース」を世界で初めて作った企業です。
GORE-TEXと並んでよく知られる繊維メーカーであるポーラテック社(旧モールデン・ミルズ社)。その社長アーロン・フォイアスタインは、今となっては当たり前であるSDGsに先駆けて企業倫理が経済社会に通用し得ることを証明した偉人です。
従業員をやる気にさせることは、組織行動の傑作です。従業員には個人的な生活や家族があり、従業員が単なる物や道具として扱われ、会社の利益を生み出すためだけに存在するかのように扱われる会社には、誰もやる気を持って働こうとはしませんし、従業員の命や意見の保護を軽視する会社のために追加の仕事を進んで行おうとも思わないでしょう。したがって、従業員の幸福の追求は組織文化の重要な側面です。
マルデン・ミルズは、従業員を大切にする会社の完璧な例です。マサチューセッツ州ローレンスにあるニューイングランド最大の繊維工場であるマルデン・ミルズでは、1990年代に時給換算で11ドルを社員に支払っており、福利厚生を含めると約15ドルにも上ります。これは当時の業界の平均給与を大きく上回っていました。他の多くの繊維メーカーがアメリカ南部やアジアの安価な労働力を求めて工場移転していた一方で、マルデン・ミルズは失業率または生活保護依存率が 90% を占める都市ローレンスに留まりました。またマルデン・ミルズは従業員の住宅支援を行うプログラムを設立しており、その地域最大の雇用主であったマルデン・ミルズは貧しいその地域にとっての救世主のような存在でした。
そんな中、災害がマルデン・ミルズを襲いました。
1995 年 12 月 11 日に災害が発生しました。モールデン・ミルズ工場のボイラー室で爆発が起こり、工場の建物 3 棟、合計 7万平方メートルが焼失しました。この火災は、マサチューセッツ州で過去 100 年間に発生した最も大規模な火災で、推定 5 億ドルの損害が発生し、33 人の従業員が負傷し、中には命に関わる火傷を負った人もいました。この災害の影響は壊滅的で、クリスマスのわずか数週間前に 3,200 人近くの従業員が職を失ってしまいました。
しかし、ファイアスタインは従業員を見捨てませんでした。彼は、焼失した工場をこのモールデンに再建し全ての従業員を再雇用する事を誓い、会社が再建を計画している間、少なくとも 30 日間すべての従業員に引き続き全額の給与を支給すると宣言したのです。さらに、火災の2日後には275ドルのクリスマスボーナスも支給しました。
フォイアシュタインの決意は単なる言葉にとどまりませんでした。翌年1996 年 1 月とそして2 月、彼はこの誓約を延長し、再建プロセスを通じて従業員に給与が支払われるようにしました。この決定は彼の従業員への献身の証であり、しかし1 週間あたり約 100 万ドルの費用がかかる財政負担でもありました。コスト削減のために簡単に馘首し人件費の安い地域に生産工場に移転することが当たり前だった当時の企業慣行とは逆行した企業倫理に満ちた尊い決断でした。
フォイヤーシュタインの行動に議論がなかったわけではありません。企業精神が従業員の福利厚生よりも株主の価値を優先することが多かった時代に、従業員の福利厚生を優先するというフォイヤーシュタインの選択は、自由市場の原則に反すると考える人もいました。批評家は、そのような寛大さは会社の財務健全性を損ない、問題のある前例となる可能性があると忠告しました。しかし、フォイヤーシュタインは、従業員とコミュニティへの忠誠心が長期的な成功の基本であるという信念に基づき、自分の行動は正しいと信じました。
モールデン・ミルズの再建は困難なものでした。当初の絶望にもかかわらず、フォイヤーシュタインと彼のチームは再建計画に精力的に取り組みました。彼らは火災現場から機器を救い出し、そして市と州の役人の助けを借りて再建プロセスを促進し、また従業員の信じられないほどの献身と忍耐力に支えられました。
オーナーの従業員に対する良心的な行動が、マルデン・ミルズの再建を手助けするための労働力の士気を高めました。ファイアスタインは、マネージャーや労働者が非常に献身的で、マルデン・ミルズの事業を再開するために驚くべき時間を働いたと述べ、彼らの努力に感謝の意を表しました。
フォイヤーシュタインの献身は大きな注目を集めました。メディアは彼の行動を称賛し、彼は一般教書演説のためにクリントン大統領からホワイト ハウスに招待されました。
また、フォイヤーシュタインは火災から1週間も立たないうちに1万通以上の賞賛の手紙をもらい、中には生涯にわたりモールデン・ミルズ製の製品しか購入しないという誓いの文章までありました。
またL.L.Beanをはじめとするアパレルメーカーにおいてはフリース素材はモールデン・ミルズ製以外は仕入れない事を宣言しました。
メディアが報じたマルデンの事件と同じ効果の広告カバレッジを宣伝するための仮想的な管理費用を計算し、それが4000万ドル以上の価値があったと言われています
1997 年 8 月に 1 億 3,000 万ドルの新しい工場が落成したことは、重要な節目となりました。古い工場の跡地に建設された新しい施設には、残っていた塔が組み込まれ、復興の成功を象徴しました。
賃金の低い州や国に移転するのではなく、マサチューセッツ州で再建するというフォイヤーシュタインの決断は、忠誠心と企業責任についての力強いメッセージでした。多くの競合他社が安い労働力を求めて海外に移転していた繊維業界において、モールデンに留まり再建するという決断は、高賃金で品質重視の製造業の勝利とみなされました。
新工場はモールデン・ミルズを活性化させただけでなく、地域経済にもプラスの影響をもたらしました。ポーラテック ファブリックに代表される品質と革新に重点を置いた工場の姿勢は、同社が大幅な売上増を達成するのに役立ち、予想収益は 1995 年の 4 億ドルから 1998 年には 5 億ドルに増加しました。同社は元従業員のほとんどを再雇用し、さまざまな取り組みを通じてコミュニティへの支援を続けました。
フォイアスタインのストーリーは、倫理的なリーダーシップがビジネスの成功とコミュニティの福祉の両方を推進できることを示す説得力のある例です。逆境に直面しても従業員を支援し再建するという彼の決断は、深い責任感と忠誠心の価値に対する信念によって推進されました。彼の行動は従来の企業慣行に疑問を投げかけ、企業が従業員とコミュニティの幸福に貢献する方法の新しい基準を確立しました。
倫理原則への取り組みと品質重視を特徴とするフォイアーシュタインのビジネスへの取り組みは、企業責任のモデルとして今もなお共感を呼んでいます。従業員との強い絆を維持し、地域社会に投資することが長期的な成功につながるという彼の信念は、今日のビジネス環境においても依然として妥当です。
フォイアーシュタインの遺産は、モールデン・ミルズの再建の成功だけでなく、彼が掲げた価値観そのものでもあります。彼の物語は、倫理的リーダーシップの重要性と、一個人の原則が業界全体と地域社会に及ぼす影響を思い出させてくれます。フォイアーシュタイン自身が述べたように、彼の行動は彼が何十年も掲げてきた価値観を反映したもので、現代の企業文化では見過ごされがちな価値観です。
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